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覚醒した気管挿管患者に身体抑制?

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前回のJSEPTIC看護部会のアンケートでは、約7割の施設で覚醒し、穏やかで指示が入る気管挿管患者の半数以上の身体抑制を行うという結果でした。 で、もうひとつの結果。 「覚醒した気管挿管患者に対し見守りがない場合でも抑制をはずしますか?」 「抑制を外すことが多い」のは約2割。 「抑制をすることが多い」のは約8割。 多くの場合、家族や看護師が見張っていなければ、覚醒していて、穏やかでも抑制をするという結果。 ここで、これらを組み合わせて検討してみる。 すると面白いことに、 覚醒し、穏やかで指示が入る気管挿管患者には25%以下しか抑制しない(つまり、あまり抑制しない)という施設のうち7割は、覚醒した気管挿管患者に対し見守りがない場合でも抑制を外すことが多いと回答している。 逆に覚醒してても75%以上身体抑制やらせてもらいますよ、という施設では、「覚醒した気管挿管患者に対し見守りがない場合でも抑制を外すことが多い」と答えたのは2%程度。 あたりまえの結果かもしれないけど、面白い。 抑制しないようにするためにはマンパワーが必要、というけど、なぜマンパワーが必要かというと、抑制を外した場合、誰かが自己抜管しないか見張っていなければならないから。 もし、覚醒して穏やかな気管挿管患者には抑制も見張りもいらなかったら? 今回の結果からは抑制が少ない施設は、人数が多いために見張っていられるということではなく、見張れなくても抑制を外す現実が伺える。 そうなるとマンパワーの問題とは言えなくなる?

CAM-ICU? ICDSC?

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最近ICDSCに関する質問があったので、立て続けですが。。 どちらが感度が高いか、特異度が高いか、などの議論は前に書いたとおり。 基本的には施設の特性にあわせて選べばいいだけ。CAM-ICUもICDSCもかなり研究で使用されているし、それなりに妥当性のあるツールだといえる。何もやらないよりはやった方がよかろうと思う。 では、うちの施設では?というとCAM-ICUを使っている。なぜか? せん妄のスクリーニングツールを使用するひとつの目的に、どのくらい予後を反映するかということがある。論文でも、この患者層にせん妄スケールが使えるのかな?ということを評価する際、死亡率を当てはめて、せん妄陽性の患者で死亡率が高かったから使える!となったりする。せん妄は多臓器不全のひとつの表現型だという考え方が主流なので、そういうことになるらしい。 しかし、看護師がせん妄を評価する動機って、そういうことかな?と思う。せん妄それ自体を診断するのではなくって、知りたいことはその患者が説明を理解したり、記憶を保持したり、予測外の行動をとるかどうか、ということだったりする(簡単にいえば、ラインを抜いたりする危険があるか)。これはせん妄と同義なのかもしれないけれど、全く一緒じゃない。これは「せん妄」に関する主流な議論とは違うのかもしれないけれど、せん妄の評価を行う主な動機は、身体拘束の必要性を判定したりするところに実はあると思う。 そこを素直にみないと、せん妄評価を導入したのはいいけど、どうやって看護に活かせるのかがわからない、ということになるんじゃないかな、と思う。 で、説明を理解したり、記憶を保持したり、予測外の行動をとるかどうかを判断するには、CAM-ICUの方が適している(直接患者に質問をするので、感覚的に当たっている感がある)ような気がする。自分たちが見たいのは予後とか、多臓器不全のことじゃないんじゃあないかな、と(それは主流な意見じゃないだろ、というのも分かります)。 実は同じ方向を向いているはずの、導入したい医師と看護師の間に動機のギャップがある気がする。 まあ、どちらを使ってもいいんです。それが何か看護実践に活用できるのであれば。

鎮静の中断時のICDSCは?

鎮静中断で深く鎮静されていた患者が覚醒してきた場合、ICDSCの「症状の変動」は陽性になるのか?という質問がありました。 こういうのは、元文献に書いてあることに忠実に従うことが必要となるかと思います。なので、陽性になると思います。これはCAM-ICUのfeature 1も同じかと。どのような理由があったとしても、すぐに覚醒する睡眠状態ではなく、意識レベルが低下している状態から覚醒状態(すぐに覚める睡眠も含めて)になる場合は陽性かと思います。 もし違うんじゃないかという意見がありましたら、教えて頂ければありがたいです。

グローブ、ガウンの汚染

いつもと変わったところで、感染管理ネタ。 多剤耐性菌保菌者の部屋に入った場合、どの程度グローブ、ガウンが汚染されるか。 Morgan, D. J., Rogawski, E., Thom, K.  et al. (2012). Transfer of multidrug-resistant bacteria to healthcare workers’ gloves and gowns after patient contact increases with environmental contamination. Crit Care Med, 40(4), 1045–1051. ガウン→2.3-12.6%。 グローブ→10.0-29.3%。 グローブを脱いだ後の手指→1.7-4.2% グローブ、ガウンともにそれらの一部から検査したデータであって、それ以外が汚染されていない訳ではないことに注意。 部屋からでてきた時に、グローブあるいはガウンから多剤耐性菌(MDRO)が陽性であった場合、そうでない場合で、部屋でなにをしたかを調べたところ、 陽性であった場合、 ①フィジカルイグザミネーション ②5分以上在室していた ③4回以上患者に触れた ④創傷処置 ⑤人工呼吸器の操作 を行っていたことが有意に多かったらしい。また、MDRO陽性になった場合、その部屋の環境が汚染されていることが多かった。 多変量解析の結果では、 ①フィジカルイグザミネーション ②5分以上在室していた ③環境汚染 ④人工呼吸器の操作 がガウン、グローブからMDRO陽性となる危険因子として挙った。 人工呼吸器は結構危険!!特に、いろいろな人が触るので要注意ですね。

レベルの高いICU?

よくレベルの高いICUって聞きますけど、どんなのがレベルが高い何でしょうねー。 ここをよくよく考えねば。 例えば、 どの看護師もAaDo2を計算できて、聴診も上手で適切なRecommendをしてくれる。 P-V loopを解析して適切なRecommendをしてくれる。 いいですね。もし全員が正しくそれができれば患者への医療の質もあがるかも。でもそういうところってそんなにないのではないでしょうか。 もしあったとしても、 身体抑制を最小限にしています。 手指衛生は完全です。 ってところはもっと少ないかも。もし、 みんながP-V loopを解析して適切なRecommendをしてくれる、というICUがあったとして(P-V loopの有用性は別な議論ね)、でも、抑制をすごくしてたらどうだろう。また、手指衛生はいまいちだったらどうだろう。 私たちは、できるだけ良いICUを目指したいと思う。そのためには、手指消毒とか、身体抑制とか、そういうことを真剣にやらなければならいんじゃないかなあ。アニオンギャプより。違いますかねー。

体位交換の前に吸引?

最近、体位交換前に吸引するのは必須だ!という意見を聞くことがありますが、それにはどの程度の裏付けがあるのでしょうか。 確かに、体位交換時には気管チューブも動くし、頭位もかわるので、そのときにカフ上部の分泌物がたれ込む可能性があると思います。 でも、 「そうすべき!」 「そうした方がいいかもねー。」 「どちらでもいいよ」 と推奨レベルにはいろいろあります。特に臨床で注意するときには、その辺を区別しないといけないのだろうなと思います。明確な根拠もないもので、すべき!!と怒られてもみんなやる気なくしかねないし。 「体位交換前に吸引する」の文献は、 Chao, Y.-F. C., Chen, Y.-Y., Wang, K.-W. et al. (2009). Removal of oral secretion prior to position change can reduce the incidence of ventilator-associated pneumonia for adult ICU patients: a clinical controlled trial study. J Clin Nurs , 18 (1), 22–28.  簡単にいえば、体位交換前に口腔内を吸引するとVAPが減ったという論文なのですが、いろいろとつっこみどころがあります。 対象は48時間以上人工呼吸を行った、159人の介入群と102人の対照群です。これはRCTではなく、いわゆるbefore after studyです。beforeとafterの差はあまりないから、まあいいとして、問題は、肺炎の診断基準が全く明確じゃないこと。第三者が検討したのか、何をもって肺炎を疑ったのかなど重要なアウトカムの判定が不明。 結果、VAPの発生率は、介入群、対照群で4.9% vs 15.1%。Ventilator Dayでの解析はなし。くわしくは論文をみて欲しいのですが、何か微妙。 個人的には、ここで飛びついて「体位交換の前には口腔内の吸引をすべき!」とは言わないかな。 そもそも口腔内吸引ではカフ上部の吸引はあまりしっかりできない気がするんですけどねー。どうなんでしょう。

Chemical Restraint?

Chemical Restraintー直訳すると化学的抑制という言葉がある。 ちなみに身体抑制はPhysical(身体) Restraint(抑制)。 Chemical Restraintとは薬を使った抑制、つまり鎮静薬を使用して動かなくすること。 倫理的には、Physical RestraintとChemical Restraintは同等らしい。 イギリスではPhysical RestraintよりもChemical Restraintを好む傾向にあるとのこと。 なぜなら、Chemical Restraintの方が”ケアリング”にみえるから、ということ。 確かに欧州で身体抑制の現状を調査したSPICE studyでもイギリスでの身体抑制は0%だ。 マンパワーの問題だけなのか、他に何かあるでしょうか。 これとはあまり関係ないかもしれないけど、インシデントへの恐怖は身体抑制を後押しするひとつの要因な気がします。(最近の讃井先生のtweetにもありましたが。) 医療安全上は、インシデントやアクシデントの原因を個人の能力に帰属させないというのが常識だとは思うのですが、施設によっては個人(その能力)に対して攻撃を加えるところもあるらしい。 まずは、医療安全上の問題を個人の能力ではなくシステムの問題だと捉えることから初めかればいけないのかもしれませんね。もしかしたらマンパワーよりこちらが重要なのかも。 自己抜管がおきたら ①再挿管をしたのかどうか?(再挿管が不必要なのであれば、不必要な挿管が行われていたことになる。つまり、早めに抜いてくれればこのアクシデントは起こらなかった。) ②身体抑制が行われていても、そうでなくても、評価が行われているか。具体的にはCAM-ICUの評価が適切に行われていたか。 を見直す必要があります。 ほとんどの自己抜管の患者は身体抑制が行われています。身体抑制が行われていても自己抜管は起こるんです。 Benbenbishty, J., Adam, S., & Endacott, R. (2010). Physical restraint use in intensive care units across Europe: the PRICE study. Intensive &

鎮静がせん妄評価に与える影響

鎮静がせん妄の大きな原因だと言われています。 実際に評価してみると、鎮静薬の投与により反応性が低下し、せん妄評価で陽性となることがよくあります。これは鎮静薬によるものであり、なにも「せん妄」じゃないんじゃないか?と思われるかもしれません。 教科書的には、鎮静薬によるものでも、せん妄はせん妄になります。なので、せん妄の発生率が報告されている場合、ほとんどは、鎮静薬によるせん妄 (Sedatives Induced Delirium)、敗血症によるせん妄 (Sepsis Induced Delirium)などが入り交じった値なのです。 この辺を実際に検討したグループがあります。 Haenggi, M., Blum, S., Brechbuehl, R., Brunello, A., Jakob, S. M., & Takala, J. (2013). Effect of sedation level on the prevalence of delirium when assessed with CAM-ICU and ICDSC. Intensive Care Medicine , 39 (12), 2171–2179.  この研究では鎮静中断中の患者に対し、CAM-ICUとICDSCを評価しました。評価時のRASSが-2〜-3であった場合と-1以上の場合で分け、せん妄の発生率を出しました。 結果は、CAM-ICUの結果で言うと、 すべての患者における陽性率は53%でしたが、RASS -2〜-3の患者を省くと陽性率は31%まで低下しました。これはまあ、予想通りの結果だと思います。 ここで面白いのは、RASS -2〜-3で陽性率が高くなるのであれば、せん妄の評価をするときには同時に鎮静深度を記録すべきではないかということ、過去の公開されているせん妄発生率には鎮静深度に関して詳しく述べられていないものが多く、対象とした患者層の鎮静深度によってせん妄発生率が変化するのではないか(鎮静深度を考慮して発生率を眺める必要がある)ということ。 著者らは、鎮静薬により意識レベルが低下し、反応が低下している患者はせん妄なのか?という疑問をそれとなく提示しています。 それらの患者は、「鎮静が残っている」のか、「せん妄」なのか? 頭がこんが

CAM-ICUとICDSCどちらが良い?

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ICUにおけるせん妄のスクリーニングツールとしては、CAM-ICUとICDSCがメジャーどころです。これから導入するに当たってどちらがいいのでしょうか? それぞれの特徴を主観も交えて解説すると、 CAM-ICU 良い点: 多くの論文で使用されている(ICDSCも使用されているが、CAM-ICUの方が多いと思います)。 ピンポイントで今せん妄かを評価することができる。 悪い点: 患者に質問しなければならないため、手間がかかる。 場合によっては、失礼な?質問をしなければならない。怒る患者もいるかもしれない。 陽性、陰性しかわからないため、重症度に関しては分からない。 ピンポイントでの判定しかできない。 ICDSC 良い点: 患者の協力が得られず簡便である。 ピンポイントでなく、ある一定の時間におけるせん妄の有無を評価できる。 点数化されているため、重症度をなんとなく知ることができる(真の意味で重症度が直線的に表されているかは置いておいて)。 悪い点: CAM-ICUに比較するとマイナーである。 ピンポイントで今現在の評価をできない。 で、それぞれ、どのくらいせん妄を正しく評価できるのでしょうか。 メタアナリシスしている研究があるので、それを見てみましょう。 Gusmao-Flores, D., Salluh, J. I., Chalhub, R. A., & Quarantini, L. C. (2012). The Confusion Assessment Method for the Intensive Care Unit (CAM-ICU) and Intensive Care Delirium Screening Checklist (ICDSC) for the diagnosis of delirium: a systematic review and meta-analysis of clinical studies. Crit Care , 16 (4), R115. doi:10.1186/cc11407 PMID: 22759376 CAM-ICU:感度 0.80 (0.77-0.83)、特異度 0.96 (0.95-0.97) ICDSC: 感度 0.74 (0.65-0.8