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10月, 2013の投稿を表示しています

末梢を温めることに意味はあるか?

成人患者で末梢が冷たい場合、末梢を保温したりしますよね。それって効果があるのでしょうか? 効果があるかを考えるには、その保温という行為の目的がはっきりしないといけません。目的はいろいろなのでしょうが、まずは末梢の循環を改善する?ということを考えたいと思います。 私たちが使用するホットパックで末梢循環は改善するかもしれません。それはある種のパルスオキシメトリーについているPerfusion Indexや、それまでうまくひろわなかったSpO2が表示されるというような場面で実感することがあります。しかし、これらは大きい目で見た循環動態や予後を改善するかというと、どうでしょうか。それを示した研究は私の知る限りありません。 実は看護師が行う末梢の保温は、これらの目的だけでなく、別の大きな目的があるのではないでしょうか。それは循環の改善等の大きな目的を達成するわけではなく(多少の期待はしているかもしれない)、シンプルに手足が冷たい、ゆえに、保温するということです。 手足が冷たい=つらいこと、なので、つらさを緩和しよう、ということですね。 なので、末梢を温める行為の目的は、生理学的な何かの改善のみにあらず、なのではないでしょうか。辛そうだからそれを緩和したいという看護師の優しさだったりするのかもしれません。それはそれで、よい話なのではないかなと思います。

身体抑制アンケートの感想

結果をまとめると ①身体抑制は覚醒している気管挿管患者では頻繁に行われている。 ②抑制していないことが多いという施設でも、その間は看護師が付きっきりで監視している。 ③覚醒している気管挿管患者で、25%以下しか抑制をしないと答えた施設では、看護師や家族が見守りしていなくても抑制しないと答えた施設が多かった。つまり覚醒した患者に抑制をあまり施設では、抑制がなくとも見守りもしないことが多い。 ④深鎮静の患者に対しても抑制していることが比較的多かった。 ⑤覚醒している患者に対し抑制しているかどうかと患者対看護師数を比較すると、有意な差は無かった。 ⑤は、マンパワーが身体抑制するか否かに関連していないことを示唆しています。 これはどういうことかというと、③から分かるように、覚醒患者に抑制をしない施設は、マンパワーに頼っているのでは無いということになります。 「挿管患者は目を離しては行けない」と思う施設では、「覚醒している気管挿管患者で、25%以下しか抑制をしない」を聞くとマンパワーの問題だという意見が出ると思いますが、実は「覚醒している気管挿管患者で、25%以下しか抑制をしない」ことができる理由はマンパワーがあるわけではなく、「挿管患者は目を離しては行けない」と思っていない、つまり抑制していなくても自己抜管が起きないと思っているからだと思います。 本当に覚醒していて、抑制をはずしても自己抜管しないのでしょうか?たぶんしないので困っていないのだと思います(厳密には自己抜管を調べる必要があるでしょうが)。 難しいですね。でも私たちの思い込みによって不必要な抑制が増えるのであれば、どうにかしたいですね。

動脈圧・中心静脈圧などの測定方法

Q:動脈圧(ABP)や中心静脈圧(CVP)などはベッドをフラットにして測定した方がいいですか? 心不全や頭部外傷の患者さんに対しては、モニタリングで負荷がかかるように思います。また、頭部挙上したままABPを測定する場合、再度0点校正をした方がよいですか? A: 個人的には、ベッドをフラットにしても、問題がないと思われる患者さんならば、フラットにして測定しています。 ベッドの頭部挙上の角度が、APBやCVP、スワン・ガンツカテーテルでの心拍出量など測定値に影響を及ぼすかに関しては、あまり多く研究されていません。 数少ない知見では、0度、30度、45度の間で、心拍出量を除く他の スワン・ガンツカテーテルの 測定値に差はなかったとされています。心拍出量も臨床的に考えると大きな影響のない範囲であったとされています Wilson AE, Bermingham-Mitchell K, Wells N, Zachary K. Effect of backrest position on hemodynamic and right ventricular measurements in critically ill adults. Am J Crit Care. 1996 Jul;5(4):264-70. PMID: 8811148 もちろん頭部挙上した状態での測定では、トランスデューサーを0点校正した体の位置に調整し直す必要があります。 0点校正とは、モニターに血圧が0mmHg となる位置を記憶させる作業です。一度覚えさせてしまえば、位置を調整後に再度0点をする必要はありませんので、位置を調節するだけでかまいません。個人的には、ABPの測定値が正しいかどうか評価するために、勤務のはじめに0点校正と参考値としてのNIBP(カフ血圧)を測定しています 。

気管挿管患者への身体拘束に関するアンケート

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気管挿管患者に対する身体拘束に関するWebアンケートの結果です。ICU、HCUで勤務する104人からの回答をいただきました。ありがとうございます。 重複した施設や施設名未記入の回答を省き、92施設の方からの結果を分析しています。 細かい分析はまた別にということで、全体のざっくりとした結果を報告します。

VAP予防:夜間も頭部挙上しなければならない?

特に意識状態の良い患者では、本人の体位の好みがありますよね。もっと頭を下げてほしい、とか、もっと挙げてほしいとか。 VAP予防の観点で言えば、頭部挙上30°から45°がガイドライン等で推奨されています。でも本人の好みとこの推奨がぶつかってしまうことは良くあることではないでしょうか。どのように考える必要があるでしょうか。 原理原則で言えば、VAP予防のためには、夜間も含めて頭部挙上を維持する必要があるということになります。理屈上、頭部挙上がなされない時間が長いほど、VAPの リスクは高くなるはずです(あくまでの理屈の話です。研究として頭部挙上の時間とVAPのリスクの関連性は分かっていないと思います)。 しかし、特に浅い鎮静管理が推奨される現在、患者の体位に関する「好み」を無視して頭部を常に挙上し続けることは難しいのではないかと個人的 に思います。 45°頭部挙上が仰臥位と比較してVAP発生率を低下させるというRCTが出てから14年も経過しています。その頃とは鎮静管理の方法もかな り違うと思いますし(例えば患者の嚥下機能も違うんじゃないかと思うのです)。現在の管理の方法で、同じような研究を行った場合、同じ結果が出るとは限らないわけです。また、もともとの論文は0°と45°を比較するという割と極端な比較であって、たとえば20°と30°では違うか、は明確な結論は出ていません。実際に45°を なので、本人の好みが分からない(つまり意識障害があったり、深い鎮静下の患者)場合は、できるだけ頭部挙上を維持する。浅めの鎮静の場合、 頭部挙上をおすすめするけれども、本人のとりたい体位を考慮にいれる、ということでよいのではないかと感じています。 みなさんの施設ではどうなんですかね。(少し聞いてみたところ、本人の好みを結構優先しているような印象でした) Drakulovic, M., Torres, A., Bauer, T.et al. (1999). Supine body position as a risk factor for nosocomial pneumonia in mechanically ventilated patients: a randomised trial. L

鎮静とせん妄に関する間違い トップ10

なかなか面白いレビューがでたので紹介します。 鎮静とせん妄に関する間違い トップ10 ①すべての人工呼吸患者には鎮静薬が必要である。 ②鎮静が深い患者にケアするのは簡単である。 ③外科系のICU患者のみが疼痛を経験する。 ④鎮静薬は睡眠を促進する。 ⑤せん妄はICUに滞在することによる合併症である。 ⑥せん妄の評価や気づきは、評価者間で一定である。 ⑥ICUにおけるせん妄は類似しており、薬剤で効果的に対処できる。 ⑦一日一回鎮静を中断するのは危険である。 ⑧鎮静薬や鎮痛薬は蓄積しない。 ⑨深鎮静や記憶の喪失は精神的なアウトカム、特にPTSDを改善する。 Peitz, G. J., Balas, M. C., Olsen, K. M., Pun, B. T., & Ely, E. W. (2013). Top 10 Myths Regarding Sedation and Delirium in the ICU.  Crit Care Med ,  41 , S46–S56. 

夜間鎮静を深めることに効果があるか? Part 2

Part 1では、鎮静深度を深めるということが、生理的な睡眠を促進していることになるか、という観点から論文の紹介をしました。 今回は、Part 2ということで、せん妄やSBTの成功率あたりの観点から、2012年、Critical Care Medicine誌から出た研究を紹介します。 140人の12時間を超えて人工呼吸を受けた患者を対象にし、研究参加から4日間、「夜の平均鎮静薬投与量マイナス昼の平均鎮静薬投与量」−つまり、夜間に鎮静薬を増量するとプラスに傾く−と様々なアウトカムの関連を見ています。 以下結果です。 *どのくらいの患者で夜間鎮静薬を増量していたかというと、3日目の時点で、ベンゾジアゼピンを投与されている患者の33%、プロポフォールを投与されている患者の59%。 *昼間のプロポフォール投与量とせん妄発生は統計学的に有意な関連はないものの、投与量が多いほどせん妄のリスクが高まる方向にある。 *昼間のベンゾジアゼピン投与量とせん妄発生には有意な関連がある。 *夜間のベンソジアゼピン増加と次の日のせん妄発生には有意な関連あり。 *夜間のプロポフォールと増加と次の日のせん妄発生には有意な関連はない。 夜間のベンゾジアゼピン増加は翌日のSBT失敗率上昇と関連している。 夜間のプロポフォールと増加は翌日のSBT失敗率上昇と統計学的に有意な関連はみられない。 他にもいろいろ結果はあるんですが、お腹いっぱいになるので、とりあえずここまで。 鎮静薬はやはり鎮静薬。リズムをつけたからといってせん妄を予防するわけではない(ベンゾジアゼピンでは逆にリスクを増加させるし、プロポフォールでもせん妄を予防する方向に働くわけではなく、有意な差はないものの、せん妄発生を促進する方向に働くようにみえる)。 SBTに関しては、鎮静が「残る」ことが関連しているようですね。 興味深い結果です。ではどうしたら?という答えはここではでません。 少なくとも鎮静を夜間増加させて眠っているように「見えれば」、昼夜のリズムがとれて、せん妄も少なくなるんじゃない? という意見は妥当ではない。ということですかね。 Seymour, C. W., Pandharipande, P. P., Koestner, T., Hudson, L. D., Tho

夜間鎮静を深めることに効果があるか? part 1

昼と夜で鎮静深度を変化させる(夜間は深く鎮静する)のは、日常的に行われるpracticeであると思いますが、それは本当に効果があるのでしょうか? この効果というのは、何かと考えてみると、夜間、きちんと眠れた気がするとか、生理的な睡眠が促進されるとか、サーカディアンリズムが整えられて、せん妄が減少するとか、そういうことが考えられます。では、それらの「効果」が本当にあるのでしょうか? ここでは、生理的な睡眠が促進されるか、という研究結果を紹介します。 http://www.jseptic.com/nursing_paper/pdf/np_001.pdf 鎮静を深めれば良いという単純な話でもないみたいですね。。

NPPV装着時の口腔ケア(呼吸状態が悪い場合)

NPPVを外して口腔ケアをする時に、SPO2が下がる場合の方法ですが、 しない訳にはいかない理由は 1.痰が口腔内に溜まっている場合がある 2.口腔内が乾燥して不快となっている場合がある 3.マスクの圧迫で褥瘡となっている事に気がつけない事がある。 などがあります。  私が当院で推奨している方法ですが、  1)オーラスバランスなどのジェル製剤を口の中に塗布すし、直ぐにNPPVを装着する 2)5~30分放置 3)リザーバーマスクの準備及び、口腔内洗浄液を浸したガーゼを棒に巻いたものを準備 4)NPPVを外して、リザーバーマスクに変更し、ガーゼ棒で口腔内を拭う  5)一回したら、NPPV装着、SPO2のリカバリーを確認。  6) 4)と5)を繰り返す。 7)最後に保湿ジェルスプレーを口腔内に噴霧する。 *上記は、シビアな低酸素血症でNPPVを短時間しか外せない人の方法として推奨 しています。 *7) の保湿ジェルスプレーはNPPV利用者、にはとても効果的なものです。口腔ケアの時だけでなく、吸引時など、マスクを外すたびに1~2プッシュしておくと、口腔内の保湿が保たれ、口腔ケアする時間自体が短縮しますし、乾燥の不快感の軽減や吸引チューブの滑りがよくなります。オススメです。

患者、家族が治療の限界を感じ、終末期医療を求めているが、治療側は治癒するのでは?というジレンマの対応について

例えばNPPVを行っている場合を例にしてみます。 私もこのような患者の方針について、医師や看護師から相談を受ける事があります。治療の方向性や勝率を冷静に医師とディスカッションします。具体的な治療計画、その治療の勝算を患者や家族の価値観はとりあえず置いておいて、冷静に検討します。 その上で、今、対症療法している(例えばNPPV)についてどの位耐えれば良いのかを、これも冷静にディスカッションします。 で、もしその勝率が悪いと判断すれば、患者の価値を尊重した生き方を支援すべきと思います。 緩和というのは、治療を継続している時から開始すべきであり、このNPPV療法であっても、苦痛緩和として、緩和的な介入を開始するの は必須だと個人的には考えます。 これ以上の治療について手を引くかということについては、医師の見解と患者の価値感(患者の価値感を代行できる他者含め)を多くの時間 をかけて、検討すべき内容だと考えます。答えはその人だけのものであり、悩むプロセスが大事と考えます。 患者本人が望んでいなくても、家族が積極的な治療を望む場合もありますね。本人の思いを家族に考えてもらって、より患者の価値観にそった医療 が提供できるようにしっかり話し合うことが大切だと思います。