カフ圧計がないのですが・・・・

気管壁に掛かる圧力 = {カフ内圧 - (カフ張力によって生じる打ち向きの力)}/カフの接地面積

カフ圧計の値が高くなればそれだけ気管壁の虚血などの合併症のリスクが上がるといえます。

一番いいのは、挿管時にカフ圧計を使用して、カフ圧を測定することです。 もちろん、そんなことは知っていて、でもカフ圧計が無い、または買ってもらえない施設ではどうしたらいいのか?という質問が来ましたので、現時点での解決策を考えてみました(完全な解決策は見つからなかったですが・・・)

多くの施設でカフ圧計がなかったころには以下のような方法がとられていました。
・とりあえずシリンジで10cc
・耳たぶの堅さ程度に
・リークが無くなるぎりぎりの量 これらの方法を再検討してみました。


まず、耳たぶ

過去、私たちのチームでは、耳たぶの硬さとカフ圧を比較する検討を、多職種(医師、看護師、救命士)で行いました。その結果、耳たぶの硬さは、適切なカフ圧範囲からかなりの割合で逸脱していることがわかりました(学会発表のみデータ未公開)。そりゃそうです。一人一人の耳たぶの硬さは違うし、同じと思う感覚のずれ自体も大きいのですから(ちなみに私の耳は昔ボディーピアスでおっきな穴が開いていて周辺は硬いです)

次に、リークがなくなるぎりぎりの量とシリンジで適当に入れる方法

下記の論文では、日本人240人を対象にマリンクロット大容量低圧挿管チューブ(Hi-Lo)を使用し、20cmH2Oの気道内圧でエアリークがなくなるまでカフを膨らませています。その結果、20-30cmH2Oの適正圧範囲であったものは28%、20cmH2O以下55%、30cmH2O以上17%でした。この研究では、身長と年齢からカフに何cc入れれば適正圧になるかを統計学的に検討していて、その結果、

シリンジでカフに入れる量=0.11×身長+0.042×年齢-15.6

という式が導き出されました。

例えば20歳で身長150cmならば、0.11×160+0.042×40-15.6=3.68mlをカフに入れなさいという結果でした。やや少ない感じはしますが、この式に従えば、65%が適正圧に、30cmH2O以上8%、20cmH2O以下27%にと、適正範囲内に収まりやすいという結果でした。 この式では10ccの空気を必要とする症例は少ないことになります。もちろん、人工呼吸器設定(高い気道内圧)時にエアリークをなくすためには、10cc程度必要とする人もいるかもしれません。 この研究から言えることは、リークしない量を入れるより、上記式にしたがって空気を入れたほうが良い。また10ccでは多すぎて、適正範囲より高い圧となる可能性が高いということでしょうか?


Shibasaki M, Nakajima Y, Shime N, Sawa T, Sessler DI. Prediction of optimal endotracheal tube cuff volume from tracheal diameter and from patient height and age: a prospective cohort trial. J Anesth. 2012 Aug;26(4):536-40. doi: 10.1007/s00540-012-1371-0. PMID: 22438123

一般的な臨床の感的な感じで言うと、救急外来での気管挿管時は最初はリークが無くなったところからちょっとだけ(0.5ccくらい?)入れておく。処置が落ち着いたら速やかにカフ圧計を用いて適切な圧にする、ですかね。個人的には救急外来にも(すぐにICUに移動する場合でなければ)、カフ圧計のひとつはあってもよいと思います。



コメント

このブログの人気の投稿

CAM-ICUとICDSCどちらが良い?

急性心筋梗塞、PCI後は心筋酵素のピークアウトまでケアは控えるべき?